概要

『認知・体験過程研究』(JCEP: Journal of Cognitive Processes and Experiencing)は、教育心理学や社会心理学といった心理学における諸領域の研究に加えて、発達科学、認知科学、情報科学など幅広いジャンルの研究を掲載する論文誌です(刊行された論文はこちら)。

 

研究者や実践者の協働を通した知の創出を強く意識する『認知・体験過程研究』には次の3つの特徴があります。
  • 認知過程(cognitive process)および体験過程(experiencing)(用語解説)に関する研究を広く掲載します。特に、学習や発達、創作、表現などの現場において、他者や環境との間の相互作用により刻一刻と変化していく認知・体験過程は、主要なテーマの一つです。
  • 完成原稿を投稿し,審査を受ける一般的な査読プロセスに加えて,投稿者と査読者で行われる「公開議論」を含む査読を選択できます。「公開議論」は、論点の整理と論文の事前登録 (pre-registration)の役割を果たします。査読の流れも参照してください。
  • 補助資料(Supplemental Material)の添付を推奨します。補助資料としては、文章や図表はもちろん、著者の責任で取得した実践者の振る舞いや舞台表現の動画、あるいは著者が作成した測定尺度、データベース、プログラム・コードなどが挙げられます。これらの補助資料は、本文と紐づけて公開され、本文と同様に他の論文で引用できます。

【用語解説】哲学者・臨床心理士のジェンドリン(Gendlin)が提唱した概念で、主体が身体へと意識を向け焦点化することで自覚的に感じられる体験のこと。体験の時変する性質を強調して進行形で示している。

雑誌の特色

『認知・体験過程研究』には、次の特色があります。
  • 本誌はオープン・アクセス・ジャーナルです。完全オンラインのため、紙媒体での出版は行いません。
  • 査読は1ラウンドで完結します。また、論文は採択が決定したものから随時発行します。妥当な内容であれば、研究知見を迅速に公開することができます。
  • 『認知・体験過程研究』では、研究者や実践者の協働を通した知の創出を強く意識しています。このため、通常の査読方式(原稿査読)加えて、公開議論を含む査読(議論査読)を導入しています。
  • 議論査読では、公開議論を行うことにより、研究論文としての妥当性を担保しつつ、文章でのやりとりに付随する投稿者と査読者の間のディスコミュニケーションを解消します。
      1. 既に分析済みの研究:用語の明確化や現象記述の精緻化などを促進します。
      2. 研究計画段階の研究:研究内容を事前登録する役割を果たします。事前登録をした場合、研究を通して仮説に反する結果が得られたとしても、方法や論証が妥当であれば積極的に掲載します。
  • 例外的に、学術的な論文として審査する上で不備がある場合には、編集委員の判断により査読を経ずに掲載不可の決定することがあります。査読の流れもご確認ください。

『認知・体験過程研究』の復刊に寄せて

 いまから約30年前の1991年、認知・体験過程研究は、これまでにない学術雑誌として立ち上げられました。 創刊時の代表を務めた九州大学教育学部の丸野俊一教授(当時)は、認知・体験過程研究の発刊について次のように述べています。

学問動向を追いかけるのではなく、現実世界の諸現象に向き合って、その現象に関わる中に立ち上がってくる「閃き」「感性」「疑問」「不思議さ」「未体験」「驚き」などなどを、 どのように表現し、「声なき声の内なる体験や霧の向こうに微かに感じとれるもの」をいかに可視化していくかの重要性を認識してのジャーナルの発刊でした (丸野, personal communication[1])。


 認知革命からすでに半世紀以上が経った現在では、多くの研究者が人間の認知過程を前提に研究しています。 メタ認知や自己調整学習、自己決定理論といったテーマは、学校での教授・学習という文脈に限定されず、表現者やスポーツ選手の熟達、企業での学び、リカレント教育など、様々な文脈で議論されています。 認知過程への注目は、これからも一層発展していくと予想されます。
 その一方で、五感や自己受容感覚、内臓感覚によって取得されているけれども、普段はあまり表面化してこない“感じ”については、丁寧に焦点化(Gendlin,1962[2])をしなければ、当事者ですら気づくことはありません。 2021年現在、認知科学や心理学といった分野では“感性”や“暗黙知”といった用語が高頻度で用いられています。この状況下では、現象に関わる中で立ち上がる“感じ”のリアリティが、安易な概念化やラベリングによって覆い隠されているような研究事例も多く見受けられます。 今日、現象の中で立ち現れる体験過程やその意味にはさらなる探究の余地があります。
 認知・体験過程研究では、現象に関わる中で生じる主体の認知過程、体験過程、あるいは認知・体験過程に関連する論文を広く募集します。 もちろんこれらに限定されるわけではありませんが、テーマの例としては次のようなものを想定しています。
  • 子どもたちの日常生活にふと現れる不思議
  • 欧米中心の感情理論では説明がつかないような事例
  • 会話中の沈黙やつぶやきのメタ認知的な意味づけ
  • 熟達者が肌で把握する場の感覚と即興
  • 発達研究の心理実験で「例外」と分類される行動の再検討
  • 現場で得られた観察事例を体系化する試み
  • 素朴な着想に基づく予備実験、など。

   引用文献
  1. [1] 丸野俊一 (personal communication), 野村亮太への私信 (着信2020.04.22, 最終閲覧日2020.09.01)
  2. [2] Gendlin, E. T. (1962). Experiencing and the creation of meaning: A philosophical and psychological approach to the subjective. New York: Free Press of Glencoe.
    (ジェンドリンE.T. (著) 筒井健雄(訳) (1993) 体験過程と意味の創造 東京: ぶっく東京)

論文の投稿について

  • 認知・体験過程研究会の成員に限らず、認知・体験過程の研究を行っている者は自由に投稿できます。
  • 原著論文(オリジナルのデータを分析する研究)、理論論文(新たな理論やモデルを提案する論文)、展望論文(先行文献を整理し、意味づけを行う論文)を受け付けています。
  • 出版の基準は、独自の認知・体験過程の研究であることです。方法論による制約はありませんが、原著論文では、現象の記述と解釈を行うのに必要な実験、観察、内省などのデータを含む必要があります。
  • 『認知・体験過程研究』が研究者コミュニティに定着するまでの当面の間、掲載料や査読料は無料です。
  • 論文は図表、引用文献など、すべてを含めて刷り上がり6ページ以上10ページ以内です。補足資料はこの制限に含みません。なお、本文および補足資料のいずれでもカラー図版を用いることができます。
  • 他の規定もあります。詳細については、投稿規定を参照してください。
  • 投稿先:nomuraryota[at]waseda.jp  ([at]の部分を@に変換してご利用ください)

査読の流れ

  1. 初回投稿時点に、投稿者は「原稿査読」か「議論査読(公開議論を含む査読)」のいずれを希望するかを編集委員へのメールで明示します。
  2. 編集委員は投稿された原稿を読み、原稿を査読のプロセスに進めるか、それとも掲載不可とするかを判断します。 査読を経ずに掲載不可を決定しようとする場合、編集委員は具体的な理由を添えて提案し、他の編集委員と協議を行います。 協議の結果、掲載不可となった場合には、編集委員は理由を添えて著者にその旨を伝えます。
  3. 査読プロセスに進むことが決定した原稿については、専門領域を考慮して複数の査読者を編集委員が決定します。
  4. 投稿者が「原稿査読」を希望した場合「議論査読」を希望した場合で査読の流れは異なります(下図参照。より詳しくは「査読規定」を参照)。
    査読の流れ

    [図の拡大]


  5. 編集委員は採択された原稿を校正へと進めます。校正プロセスに進んだ原稿については、投稿者は校正以上の加筆・削除することはできません。

規定

編集規定 (pdf)

投稿規定 (pdf)

査読規定 (pdf)

様式集

投稿論文用、原稿テンプレート (docx)

運営

『認知・体験過程研究』(Online ISSN: 2759-212X、Print ISSN: 0917-6438)は、認知・体験過程研究会が発行しています。事務局:早稲田大学所沢キャンパス 野村亮太研究室(〒359-1192 埼玉県所沢市三ケ島2-579-15)